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黒川温泉物語〜発展の鍵は「垣根を超えた一体感」と「ビジョンの力」〜

熊本県黒川温泉は、全国屈指の人気を誇る。
今は、かつて存亡の危機があったとは信じられないほどの盛況ぶりだ。

その秘密は何だろう。

そのキーワードは、「垣根を超えた一体感」と「ビジョンの力」だ。

当時、黒川で、祖母が経営していた旅館を見事に人気温泉として立て直した人物がいた。
その人物は後藤哲也氏。

「お客様に来ていただくには名物がいる」と旅館の裏にある岩山を3年かけて掘り進めて「洞窟温泉」を作り上げたという。

それを機に、後藤氏と他の旅館の主が侃侃諤諤話し合い、各旅館の「垣根を超えた一体感」から生まれたアイデアが入湯手形だった。
お客様が定額の手形を購入し、その手形で黒川にある旅館の中から好きな温泉を3つまで自由に選んで入ることができる。
「宿泊施設」と「入りたいお風呂」を好きなように組み合わせできる嬉しい取り組みだ。

この方法が、露天風呂のない旅館にもスポットライトが当たり、黒川温泉全体の活気につながった。

そしてさらに、黒川温泉ブランドを強固にしたのが、黒川温泉一旅館という「ビジョン」だ。
「街全体がひとつの宿、通りは廊下、旅館は客室」として共に繁栄していこうというビジョンが旅館の垣根を超えた一体感から生まれた。

全体の繁栄があってこそ、個が生きるという素晴らしい考え方だ。

結果、黒川の温泉郷一帯が黒のカラーで統一され、街全体が情緒あふれる落ち着いた雰囲気に変わった。

その後さらに、ブランドに恥じない黒川らしさの基準をまとめ「街づくり協定」を締結した。

ふるさとの自然と暮らしを守り、優しさにあふれた黒川温泉をめざすためのものだ。

あえて団体客は避け、個人客をターゲットとする受入体制。
小型車がやっと走れるほどのメインストリート。
黒川オリジナルの土産品へのこだわり。
天然素材を使用したシャンプー、石鹸の使用。
・・・。

ひとつひとつの「打ち手」が、ビジョンに向かって紡がれている。
生き生きしたストーリーになっている。

旅館の垣根を超えた一体感から生まれたビジョンと、その実現のための協定をもとにした地道な取り組みが、「日本温泉遺産100」「日本環境協会会長賞」「都市景観大賞」「ハイ・サービス日本300選」など、数々の賞にもつながった。

関係者はこう語る。

「大切な文化や自然を再発見し、全員が協力して手入れを繰り返し、世代や立場を超えた取り組みに価値がある」と。

今も、温泉街全体がまるでひとつの旅館のように、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

黒川温泉物語は、ビジネスやチームづくり、地域貢献活動など、様々な取り組みのヒントを秘めている、そう感じた。